宍塚のトンボ 概要 (2019年現在)
1 1995年の「宍塚大池地域自然環境調査報告書」
トンボの項目については、涸沼イトトンボの発見者の一人である廣瀬誠氏が、「宍塚大池のトンボ」と題して、代表的な種の幼生期の生息環境、及び、トンボ相の変貌について記している。
この中で、1995年の田辺 助氏の研究発表のリストとあわせて、49種のトンボをリストアップしているが、そのうち、流水域のトンボ11種であるのに対して、38種が止水域のトンボであり、宍塚大池が止水性の池沼として、トンボにとって豊かな生育環境があるとしている。
報告書の最後に、広瀬氏は、外来魚によるトンボ幼虫の食害への懸念と、宍塚の里山の環境の維持への期待を記している。
2 2012年の「茨城県におけるトンボ目の採集・撮影記録」茨城県自然博物館研究報告、二橋ほか
日本のトンボの記録は、203種となっているが、南方のトンボなどが多く、比較とはならないと考えられる。(日本産トンボリスト 参照) これに対して、茨城のトンボの記録は、宍塚のトンボを考えるに際して、参考になると考えられる。
さて、上記の報告によると茨城県のトンボの記録は、91種とされるが、すでに、絶滅と考えられるメガネサナエ、オオキトンボ、ベッコウトンボの3種、南方からの飛来種、ベニイトトンボなど、確実な発生地が知られていない種を除く、80種が茨城県で確実の定着しているトンボと考えられるとしている。
また、これらの記録のうち、宍塚での記録のある種は、40種にのぼっており、県内でも有数のトンボの産地となっていると考えられる。(茨城のトンボ 参照)
3 観察会などの記録
宍塚大池地域自然環境調査報告書における49種に加えて、上記の「茨城県におけるトンボ目の採集・撮影記録」及び宍塚の自然と歴史の会の発足以降、観察会などで新たに記録された種は10種 にのぼっており、全部で59種が記録されたことになる。(宍塚のトンボ29種 参照)
【「採集・撮影記録」で、オゼイトトンボ、オオギンヤンマ、ナゴヤサナエ、ヒメアカネの4種、観察会などで、コオニヤンマ、ホンサナエ、ヤマサナエ、キイロヤマトンボ、コノシメトンボ、ミヤマアカネ、ハッチョウトンボの7種】
サナエ類など流水性のトンボや汽水域のトンボ、南方からの飛来種などは、宍塚の環境から記録が出にくいことを考えると、59種の記録により、宍塚の近辺で見られるトンボはほぼ網羅していると考えられる。
また、このうち、最近10年で記録された種は、40種となっており、茨城県で定着しているトンボ80種の5割ほどが記録されていることになる。
4 近年の消長
ここ数年ほどは、毎年25種ほどトンボが記録され、30年前の発足当時と同じくらいのトンボが記録されている。
ここ10年では、宍塚初記録となった、オゼイトトンボ、ナゴヤサナエ、キイロヤマトンボ、ハッチョウトンボ、長い間、見られていなかったカトリヤンマ、マルタンヤンマ、コオニヤンマ、トラフトンボ、リスアカネも記録されている。
5. 緑の島として
ハッチョウトンボは、五斗蒔谷津の復田(茨城大学・黒田ゼミ)やイナリヤツ湿地の保全プロジェクトなどにより、ハッチョウトンボの好む環境作られたことも影響していると考えられる。久しぶりに観察されたカトリヤンマ、マルタンヤンマなどは谷津の近辺のわずかな湧水による小さな水溜まりでほそぼそと生き残ってきたのかも知れない。
初記録や久しぶりのトンボの全てが宍塚産とは思えないが、前に、廣瀬氏が指摘していたように、宍塚大池が、近辺の池沼、あるいは、河川とつながり、移出入しているとも考えられる。近隣の田んぼの乾田化など、環境の悪化によるトンボの移出入の可能性も考えられる。
宅地の進展による湧水の枯渇、外来生物の問題、ヒシやハスによる富栄養化など問題は山積であるが、宍塚の里山は、水を蓄え、生きものを育てる緑の島としての役割を果たすことが期待される。
Yamasanae
文献
廣瀬 誠 1995 宍塚地域自然環境調査報告書 P129~「宍塚大池のトンボ」
二橋 亮、山中武彦、植村好延、久松正樹 2012 茨城県自然博物館研究報告 第15号別冊「茨城県におけるトンボ目の採集・撮影記録」
井上 清、谷 幸三 2001 「トンボのすべて」改訂版 トンボ出版
尾園 暁、川島逸郎、二橋 亮 2012 「日本のトンボ」文一総合出版
宍塚の自然と歴史の会・会報 「五斗蒔」各号の記録など
宍塚のトンボ 59種
種和名 |
科名 |
2016 |
2019 |
記録 |
オツネントンボ |
アオイトトンボ科 |
絶滅危惧Ⅱ類 |
|
1 |
ホソミオツネントンボ |
アオイトトンボ科 |
|
|
6 |
アオイトトンボ |
アオイトトンボ科 |
|
|
5 |
オオアオイトトンボ |
アオイトトンボ科 |
|
|
14 |
ハグロトンボ |
カワトンボ科 |
|
|
8 |
モノサシトンボ |
モノサシトンボ科 |
|
|
2 |
オオモノサシトンボ |
モノサシトンボ科 |
絶滅危惧ⅠB類 |
絶滅危惧ⅠB類(EN) |
7 |
キイトトンボ |
イトトンボ科 |
準絶滅危惧 |
|
5 |
オゼイトトンボ |
イトトンボ科 |
準絶滅危惧 |
|
1 |
オオセスジイトトンボ |
イトトンボ科 |
絶滅危惧ⅠA類 |
絶滅危惧ⅠB類(EN) |
1 |
クロイトトンボ |
イトトンボ科 |
|
|
8 |
セスジイトトンボ |
イトトンボ科 |
準絶滅危惧 |
|
1 |
オオイトトンボ |
イトトンボ科 |
|
|
6 |
モートンイトトンボ |
イトトンボ科 |
準絶滅危惧 |
準絶滅危惧(NT) |
1 |
アオモンイトトンボ |
イトトンボ科 |
|
|
6 |
アジアイトトンボ |
イトトンボ科 |
|
|
16 |
サラサヤンマ |
ヤンマ科 |
準絶滅危惧 |
|
13 |
ミルンヤンマ |
ヤンマ科 |
|
|
1 |
アオヤンマ |
ヤンマ科 |
準絶滅危惧 |
準絶滅危惧(NT) |
11 |
カトリヤンマ |
ヤンマ科 |
|
|
3 |
マルタンヤンマ |
ヤンマ科 |
|
|
2 |
ヤブヤンマ |
ヤンマ科 |
|
|
1 |
マダラヤンマ |
ヤンマ科 |
準絶滅危惧 |
準絶滅危惧(NT) |
1 |
オオルリボシヤンマ |
ヤンマ科 |
|
|
1 |
ギンヤンマ |
ヤンマ科 |
|
|
15 |
クロスジギンヤンマ |
ヤンマ科 |
|
|
5 |
オオギンヤンマ |
ヤンマ科 |
|
|
1 |
ウチワヤンマ |
サナエトンボ科 |
|
|
14 |
コオニヤンマ |
サナエトンボ科 |
|
|
3 |
コサナエ |
サナエトンボ科 |
|
|
1 |
ナゴヤサナエ |
サナエトンボ科 |
準絶滅危惧 |
絶滅危惧Ⅱ類(VU) |
1 |
*ホンサナエ | 未確認で削除 | |||
ヤマサナエ |
サナエトンボ科 |
|
|
2 |
オニヤンマ |
オニヤンマ科 |
|
|
15 |
トラフトンボ |
エゾトンボ科 |
準絶滅危惧 |
|
3 |
エゾトンボ |
エゾトンボ科 |
|
|
1 |
オオヤマトンボ |
ヤマトンボ科 |
|
|
16 |
キイロヤマトンボ |
ヤマトンボ科 |
絶滅危惧Ⅱ類 |
準絶滅危惧(NT) |
1 |
コヤマトンボ |
ヤマトンボ科 |
|
|
2 |
チョウトンボ |
トンボ科 |
|
|
18 |
ナツアカネ |
トンボ科 |
|
|
17 |
リスアカネ |
トンボ科 |
絶滅危惧Ⅱ類 |
|
2 |
ノシメトンボ |
トンボ科 |
|
|
18 |
アキアカネ |
トンボ科 |
|
|
17 |
コノシメトンボ |
トンボ科 |
準絶滅危惧 |
|
2 |
ヒメアカネ |
トンボ科 |
絶滅危惧Ⅱ類 |
|
1 |
マユタテアカネ |
トンボ科 |
|
|
1 |
マイコアカネ |
トンボ科 |
|
|
14 |
ミヤマアカネ |
トンボ科 |
準絶滅危惧 |
|
1 |
キトンボ |
トンボ科 |
絶滅危惧ⅠB類 |
|
2 |
コシアキトンボ |
トンボ科 |
|
|
19 |
コフキトンボ |
トンボ科 |
|
|
12 |
ハッチョウトンボ |
トンボ科 |
準絶滅危惧 |
|
1 |
ショウジョウトンボ |
トンボ科 |
|
|
15 |
ウスバキトンボ |
トンボ科 |
|
|
12 |
ハラビロトンボ |
トンボ科 |
準絶滅危惧 |
|
5 |
シオカラトンボ |
トンボ科 |
|
|
20 |
シオヤトンボ |
トンボ科 |
|
|
10 |
オオシオカラトンボ |
トンボ科 |
|
|
13 |
ヨツボシトンボ |
トンボ科 |
準絶滅危惧 |
|
7 |
59 |
|
21 |
7 |
59 |
下記①の記録に、②及び③の記録を加えて作成(2019年8月13日現在)
① 宍塚大池地域自然環境調査報告書 1995 49種
② 茨城県自然博物館研究報告 第15号別冊(2012年12月)
「茨城県におけるトンボ目の採集・撮影の記録」 中、宍塚での採集記録40種
③ 各年の観察会などにおける追加記録